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宇都宮地方裁判所 昭和24年(行)17号 判決 1949年11月24日

参加原告

肥後朋友

被参加原告

船山三男

被参加被告

泉村農地委員会

栃木縣農地委員会

主文

参加原告の参加申出を却下する。

参加についての訴訟費用は参加原告の負担とする。

参加の趣旨

被参加原告は別紙目録記載の農地につき自作農創設特別措置法に因る買收請求権がないことを確認せよ。被参加被告泉村農地委員会及栃木縣農地委員会は右農地につき参加原告が耕作権を有すること及び該農地は自作農創設特別措置法による買收の対象となる農地でないことを確認せよ。訴訟費用は被参加原告の負担とする。

事実

参加原告訴訟代理人は、その請求原因として、

別紙目録記載の農地は参加原告の所有であつて農地の中目録第一に表示した農地は従前から参加人の自作地であつて他に賃貸した事実はない、目録第二表示の農地は参加人の保有反別内の小作地である従つて自作農創設特別措置法に因る買收の対象となる原因は全然ない、而して目録第三第四に表示した農地は従前訴外船山吉佐に賃貸していたものであるがその内目録第三表示の分は昭和二十年十二月同人と協議の上昭和二十一年度小作料(当時は物納)全部二十六俵及畑一反四畝歩に対する小作料(弍拾壱円)を離作料として与え完全な合意の下に賃貸借を解約し其の引渡を受けたものである又目録第四表示の分は昭和二十二年八月之亦同人と協議の上その要求に依り宅地一筆山林三筆を解約の代償として低廉な価格を以て譲渡しその引渡及昭和二十三年十月二十三日同人の子である被参加原告名儀に所有権移転登記を経由し以て完全に合意に依る解約を為したものである従て被参加原告は右農地につき賃借人であつたことはないのであるから遡及買收を請求する権利はない仮に参加原告が右農地の賃借人であつたとしても右述べたような方法に依り合意解約せられたものを爾後において遡及買收の請求を為すことは信義の原則に反することであるから前記法律第六條の二第二項第二号第六條の三、第二項に依り許さるべきものではない、しかも被参加原告は昭和二十四年三月二日目録第三第四表示の農地について耕作権抛棄書なるものを被参加被告原告村農地委員会に提出し同委員会は同年七月二十日之を承認したのであるから尚更右土地に対する買收請求権はない、而して被参加被告泉村農地委員会は被参加原告に威圧されて自由意志を失ひ、別紙各目録表示の農地につき買收計画を樹てる危険であり被参加原告と被参加被告等との間の訴訟の結果に依り参加原告の権利が害される虞があるから民事訴訟法第七十一條に依り之に参加し請求趣旨の如き判決を求めるものであると陳述し証拠として丙第一号証の一及二第二号証同第三号証の一乃至三同第四号証を提出した。

被参加原告訴訟代理人は参加原告の参加申出を却下するとの判決を求めその答弁として本件被参加原告と被参加被告との間における行政訴訟事件について行政事件訴訟特例法第八條に依り参加人主張のような参加は認められないから不適法として却下せらるべきものであると陳述した、被参加被告栃木県農地委員会指定者は参加原告の参加申出を却下するとの判決を求め答弁として被参加原告と被参加被告間の訴訟は既に取下に依り終了したのであるから参加原告参加は不適法であると陳述した。

尚被参加原告と被参加被告との間の買收指示否の議決取消並買收計画樹立請求の本訴は被参加原告の訴取下に依つて終了した。

理由

参加原告の本件参加申出が適法なりや否やの点について判断するに行政事件訴訟特例第八條は裁判所が職権を以て訴訟の結果につき利害関係のある行政廳其の他の第三者を強制的に参加させ得る点に重点があるのであつて之に依つて参加せしめられた者が如何なる形式の参加となるのか又第三者が進んで参加の申出を爲す場合に如何なる参加が許されるかは同條の係るところではなく同法第一條に依り民事訴訟法の定めるところに從うことになるのであるそこで所謂抗告訴訟には民事訴訟法第七十一條の規定に依る独立当事者参加が許されるか否かの問題であるが抗告訴訟は必ずその行政処分を爲した行政廳を被告とせねばならぬに拘らず独立当事者参加は行政廳である本訴の被告の外原告に対しても訴を提起することになるのであるから許されないという説があるしかしこの参加は訴訟経済の爲且は裁判の統一の爲第三者を当事者として参加させ三者間の法律関係を一挙に統一的に解決せんとする制度であつて第三者が本訴の当事者に対し別訴として提起するならば應訴せざるを得ない場合なのであるからたとい本訴が抗告訴訟であつても之を全面的に拒否する理由はなく行政訴訟事件特例法第六條民事訴訟法第七十一條の要件を備うる限り之を許容すべきであると解するしからば本件参加は如何というに行政事件訴訟特例法第六條との関係は之を措き民事訴訟第七十一條の要件を具備するか否かを考へて見るに同條の要件としては先づ他人間に繋属する訴訟が適法でなければならないのである、然うでなければ参加人と本訴の当事者との間に本案判決を求めることができないから三者間の法律関係を一挙に解決することを目的とする独立当事者参加関係は成立しないのである、しかるところ本件被参加原告は被参加被告泉村農地委員会に対して目的物件につき買收計画を樹立すべきことを求めているのであるが斯のように行政廳に対し特定の行爲を爲すべきことを命ずる訴が許されないことは行政事件特例法第一條に照らして明かであるからこの不適法な訴を前提とする参加は前記理由に依り許されない更に参加人が本訴の結果に依つて権利を害せられる虞れがあるという爲にはその権利侵害が不法性を帶びるものでなければならないと言ひ換いれば本訴の当事者が参加人の権利を不当に害する意思を以て故らに勝訴又は敗訴の結果を招來する場合でなければならないたとえ他人の勝訴又は敗訴に依り自己の権利を害されることが明かな場合であつてもそれが当然の結果であるときは独立当事者参加の要件を欠くのである被参加被告泉村農地委員会並に縣農地委員会は農地買收の國家機関として自作農創設特別措置法の規定に從ひ買收事務を行うのであるからその事務に関して故らに第三者の権利を侵害する意志を以て訴訟を遂行するということはあり得ないから本件参加原告申出は此の要件をも欠くこととなる以上の如く参加原告に本件参加申立は参加の要件を欠く不適性のものであるから之を却下することとし参加の訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとほり判決する。

(杉山)

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